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イチローがメジャー4年目の2004年に記録したシーズン262本安打(84年ぶりのメジャー新記録)が、アンタッチャブルレコードかどうかについて考察しています。

 

アンタッチャブルレコード(The Untouchable Record)とは抜かれない不滅の記録という意味で、日本人選手が多く海を渡り、メジャーリーグ中継が日本で放送されるようになってから広く知られるようになった言葉です。

 

2004年にイチローが打ち立てたシーズン262本安打という金字塔(打率も.372というハイアベレージ)。

それまでのシーズン安打記録保持者はジョージ・シスラー氏で、1920年に記録した257安打。

84年間も誰にも抜かれなかったという事実だけでも、いかにアンタッチャブルレコードだったかが分かります(この年のシスラー氏の打率は.407)。

 

考察するまでもなくアンタッチャブルレコード認定をしても問題無さそうですが、せっかくなので詳しく安打記録達成の要素を紐解いていきます。

安打製造機イチローの異常に広すぎるヒットゾーン

「どんな球でもヒットにする」

この言葉は、イチローと対戦した他球団のピッチャーたちが口を揃えて発言していたセリフです。

 

実際には、どんな球でもヒットにしていた訳ではありません。

ビーンボール(避けないとデッドボールになるような危険な内角への投球)は打てませんし、アウトロー(外角低め=最も打者が打ちにくいとされるゾーン)ギリギリいっぱいのコースにアウトピッチ(そのピッチャーの最高の持ち球・勝負球)を投げられると、さすがのイチローでも簡単にはヒットにできません。

 

上のセリフの意味するところは「イチローはヒットゾーンが広い」ということ。

つまり、イチローは「ストライクゾーン以外でもヒットにしてしまう」稀代のヒットメーカーなのです。

地面スレスレのボール球を上手くすくい上げてフェアゾーンに飛ばす様子は、全盛期のイチローのプレーを見ていた方ならすぐに思い出せるでしょう。

バッテリーからすると、バッターを惑わせるための見せ球をヒットにされてしまうので唖然です。

 

首位打者、盗塁王、シルバースラッガー賞、ゴールデングラブ賞、新人王、MVP受賞というメジャー史上に残る鮮烈デビューを果たしたルーキーイヤーの翌年、敬遠が前年の10から27に跳ね上がりました。

27敬遠はリーグ一位の数で、歩かせてもいいと考えながら際どいコースで勝負してもヒットにされる恐れがあるイチローとの勝負を避ける意図もあったはずです(新人シーズンの2001年の得点圏打率は驚異の.445で、両リーグ通じてトップの成績だったのが主な理由かもしれませんが)。

イチローは「高打率早打ち」傾向のリードオフマン

シーズン安打記録を樹立できた要因の一つに、イチローのバッティングスタイルも挙げられます。打席での姿勢とも言い換えられます。

 

野球映画「マネーボール」をご存知でしょうか?

メジャーリーグの中では貧乏球団だったアスレティックスが、お金をかけずに出塁率に重きを置いた選手補強・起用を成功させて躍進する、実話を元にした映画です。

 

アスレティックスだけは全バッターが出塁率を重視していたため特別でしたが、メジャーリーグでチームが先頭バッターに最も期待するのは出塁です。特にトップバッターとして打席に立つ際には、安打よりも出塁が求められます。

出塁後ランナーに求められるのは、相手にプレッシャーを与えられる盗塁ができるかどうか。

各チームともだいたい出塁率.350以上か、出塁率が低くても盗塁ができる選手が1番バッターを任されています。

 

ところがイチローは、打率が高いので必然的に出塁率も高くなるのですが、早打ちなので四球が少ないのが特徴です。

実際、出塁率だけをみるとルーキーイヤーよりも首位打者を逃した2年目の方が高くて、当時メジャー関係者はイチローの2年目をリードオフマンの役割を全うしたと評価していました(2001年は打率.350で出塁率.381、2002年は打率.321で出塁率.388)。

 

ここまで打率が高くて早打ちの1番バッターは、メジャーではあまり多くいません。

2015年にナ・リーグの首位打者を獲得したマーリンズのディー・ゴードン(当時イチローの同僚)もイチローと同じく早打ちの選手ですが、希少な存在といえます。

ゴードンは「イチローの再来」と騒がれるほどセンセーショナルな活躍を見せましたが、それでもシーズン安打数は205本に留まりました(出場試合数が145試合だったのも影響しています)。

 

つまり当時のイチローは、他の誰よりも多くの安打を打つのに向いている打者だったということです。安打記録を樹立したくらいなので当たり前ですが

 

さて、ここからはイチロー自身のバッティング以外の事情を見ていきます。

1番ライト・イチローでコンスタントにスタメン出場

2004年のシアトル・マリナーズはア・リーグ西地区の最下位でした。63勝99敗で勝率は.389と散々な成績です。

イチローは低調なチームの中で孤軍奮闘、162試合中161試合に1番バッターでスタメン出場しました。

 

実は、メジャーリーグでは試合の行方が殆ど決まったような場面では主力を温存したり、シーズン中に意図的に休ませたりします(怪我をしないようにとの配慮が主な理由)。

そんな風潮の中、2004年のイチローの161試合出場はかなり多いと言えます。

 

試合に出たいイチローの意向を球団が尊重してくれたのもありますし、チームが弱いので看板選手であるイチローを出場させない=観客の楽しみが減るのを意味していた点も理由に挙げられます。

のちにイチローが所属することになるヤンキースなどの強豪に、全盛期イチローの頃から在籍していたならば、161試合も出場できなかったかもしれません(渡米直後の松井秀喜のように連続試合出場記録があれば話は別ですが)。

 

過去3年間(2015〜2017)を見ても、ア・リーグで160試合以上出場した野手は、5人・7人・4人と一桁で推移しています。

多くのヒットを打つためには、多く試合に出場しなければなりません。

2004年のイチローは1番バッターとしてスタメン出場を続けて、262本ものヒットを積み重ねていきました。

チームの弱さによって増えたイチローの打席数

チームの弱さによって、イチローの打席数が増えていた点にも注目します。

味方打線が強力だと個人の打席数も増えるのは納得だと思いますが、実はチームが弱くても個人の打席数は増えます。

リードされた展開の場合、ホームゲームなら9回裏の攻撃があるからです。

 

ベストな状況は「味方投手がよく打たれるけれど打線は奮闘、チームとしては弱い」状況。

2004年のマリナーズが合致していたと言い切れないかもしれませんが、少なからずイチローの打席数増加に貢献していたのではないでしょうか。

投高打低傾向がアンタッチャブルレコード化に拍車

イチローの262本安打がアンタッチャブルレコードに認定できる要因に、近年の投高打低傾向があります。

 

2004年当時のメジャーリーグ平均打率は.266。

ところが、近頃の平均打率.250前後となっており1分以上もメジャー全体で打率が下がっています。

 

原因はピッチャーの進化

メジャーリーグ全体のピッチャーの平均球速は150km/hに到達したと報じられています。変化球も種類が増えていてひと昔前からは考えられないほど多彩になっています。

今後、打者有利な世界になるまでは各バッターともシーズン200安打をクリアするので精一杯でしょう。

 

ちなみにメジャーリーグの最多打数記録は、2007年にジミー・ロリンズが記録した716打数

この打数をかけたとしても、262本のヒットを打つには.366のハイアベレージが求められます。

これからの時代には相当厳しい数字でしょう。

イチローですら、キャリアの中で1度、2004年しか.366を上回る打率を記録できていないのですから。

 

最後に補足で、忘れてはいけないのがセーフコフィールドは投手に有利な球場と言われていることです。

チームの本拠地が投手有利な中での偉業達成なので、イチローの262本という安打記録は一層輝きを増しています。

(本拠地が打者有利だったなら、もっと数字が伸びていたのでは...なんて考えてしまいますが)

 

 

以上、長々と分析してきましたが、イチローが2004年に記録したシーズン262安打がアンタッチャブルレコードであることに疑う余地がありません

 

残りの野球人生がどれだけあるのかは分かりませんが、通算安打記録もどんどん伸ばしていってほしいものです。

日米通算でピート・ローズの持つメジャー記録の更新、そしてメジャー3000本安打へと、イチローの挑戦はまだまだ続いていきます。

 

(追記)日本が誇るレジェンド・イチロー。どちらも記録達成してしまいました。

どこまでメジャー通算安打数の上積みができるか、いつまで現役を続けられるのか(本人の宣言通り50歳まで現役出場できるのか)、引き続きイチローを見守って応援していきましょう!

 

(2019/3/22追記)イチローが会見を開いて現役引退を表明しました。

これから先、イチローのアンタッチャブルレコードに迫る選手の登場を楽しみにしたいと思います。