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テニスの試合中に目にするチャレンジシステム。

ジャッジを巡って主審と選手が打球を確認する光景がよく見られ、テニス観戦の醍醐味の一つにもなっています。

 

今回はチャレンジシステムの仕組み、やり直しルール等についてまとめています。

チャレンジシステムとは?どうやって合図する?

チャレンジシステムとはテニスの試合中、判定が不服な場合にビデオ判定(CG映像)での再ジャッジを選手が主審に申し出る制度です。

チャレンジのジェスチャーを主審に見せて行います。

チャレンジのジェスチャー
指を立てて合図を送る選手が多い印象ですが、テニスラケットを上に動かす、または挙手する選手もいます。

微妙な判定の際には審判もチャレンジするかどうか様子を伺っているので、合図にアレンジを加えても通じています。

会場に映像が流れると、観客は手拍子で判定の行方を楽しみます。テニス観戦はマナーの厳しさで有名ですが、このようなお祭り感覚のシーンもあります。

 

ちなみにホークアイという言葉もありますが、鷹の目(Hawk-eye)の意味でチャレンジシステムに利用される電子審判技術(審判補助システム)の名称です。

イギリス本社のホークアイ・イノベーション社(Hawk-Eye Innovations Limited)によって仕組みが開発され、今も改良が続いています。

 

ホークアイのカメラ機器が設置されているテニスコートならどの選手でもチャレンジシステムを利用できますが、テニスの四大大会のグランドスラム規模でも使える場所は限られているのが現状です。

チャレンジシステムの仕組み・技術

チャレンジシステムの原理は、テニスコート周りに設置された10台のハイスピードカメラによる分析です。

ホークアイとはコート周りの10台のカメラ出典:THE IMPACT OF THE HAWK-EYE SYSTEM IN TENNIS

カメラは日本のSONY製で、テニスボールと選手の動きを同時に記録します(8台のカメラでテニスボールを、2台のカメラで選手の動きを追跡します)。

大会会場のコントロールルームでは、カメラが捉えた映像がリアルタイムでコンピュータの画面に表示され、チャレンジしてからおよそ5秒以内に会場スクリーンやテレビ・ネット配信映像にリプレイが流れる仕組みになっています。

 

チャレンジシステムの仕組み・技術について、取材して詳しくまとめられた記事を見つけたのでそちらもご覧ください。一部抜粋すると...

カメラが自動的にボールを追い、それが3D映像として瞬時に表示されるのであれば、コントロールルームに詰めている審判員やエンジニアはいなくてもよさそうなものだが、そうはいかないのがテニスの試合だ。

「太陽の照りつける昼間の試合と、ライトの下で行われる夜の試合のコンディションはまったく違う。風や雨も影響するから、どんな状況でもすべてのカメラのセッティングを万全にし、ボールを正確にトラッキングできるように細かくモニターするのが私たちの仕事」とキャッシュ氏。

ホークアイのエンジニアチームは、大会が始まる数日前に大量の機材と共に会場入りする。キャッシュ氏は東京の楽天オープンにも遠征し、カメラ、ケーブルなどすべての機材を運び、設置からテスト、実際の判定までを指揮した。

チャレンジシステムは世界中を飛び回るエンジニアの高度な技術によって支えられています。

(引用元)プロテニスの大会でお馴染み。審判の世界を変えたホークアイ技術の舞台裏

チャレンジした打球の正確性(精度)について

チャレンジシステムの正確性はよく議論の的になりますが、実際の落下点とはわずかな誤差が生まれるケースが多いようです。

かつて平均3.6mmと言われていた誤差は、現在では平均2.6mmまで改善されており、これはちょうどテニスボール表面の毛羽立ちの高さに相当します。

また、着地点の楕円形に疑問の声も出ていますが、これはテニスボールが地面に着地してから約10cmもの長さにわたり変形しながら滑るためです。

ホークアイがとらえたボール変形の様子

上画像は、ホークアイ公式ページにあるテニスボールの変形イメージです(AもBも地面と接しており、その間は約10cmです)。

 

スピードが上がるほどテニスボールの変形も大きくなって判定が難しくなるので、200キロを超えるテニスの高速サーブの判定は肉眼の限界を超えていると言われています。

余談ですが、拡大映像でも判定が難しいような打球を正確にジャッジした線審は、よくチャレンジ終了後にカメラでアップにされます。

チャレンジを使える回数、成功・失敗時のルールは?

チャレンジの回数は各選手1セットあたり3回までで、タイブレークになると1回ずつ追加される仕組みになっています。

最終セットがタイブレークではない場合、合計ゲーム数が12の倍数になるごとにリセットされて各選手3回ずつに戻ります(2ゲーム離れるまで決着が付かないルールで、全米オープン以外のグランドスラムで採用されています)。

 

また、主にダブルスで採用のマッチタイブレーク※も新しいセットと判断され、両ペアに3回ずつ権利が与えられます。

(※最終セットの代わりに、10ポイント先取または10ポイント以上のスコアなら2ポイント差を付けた方が勝利するサドンデス方式)

 

チャレンジは成功する(=判定がくつがえる)と残り回数が減らず、失敗した時にのみ回数が減ります。

残り回数が無くなると、回数が回復するまでは誤審が疑われようとチャレンジシステムは使えません。

 

残り回数はスコアボードの「CHALLENGES REMAINING」欄に表示されていて、セット間での持ちこしはできません。

チャレンジの使える回数
・1セットあたり各選手3回まで(タイブレーク突入は+1回)。
・残り回数は成功すると減らず、失敗すると減る。
・セット間で残り回数の持ちこしはできない。

チャレンジ成功でポイントのやり直しルールは?

チャレンジ失敗なら線審または主審の判定通りになるだけですが、成功した場合は複雑です。

イン判定に対してチャレンジ、アウトにくつがえった場合

こちらは比較的簡単なケースで、ラリー中に「相手のショットがアウトだ」と判断、プレーを止めてチャレンジをするようなケースです(ジョコビッチがよくやる印象)。

あるいは、相手のショットやサーブがギリギリに決まって、線審も主審もインと判定しているケースが考えられます。

 

この場合チャレンジ成功してアウトと判定されれば、チャレンジした側のポイントになります

サーブの場合はフォルトになるので、そのサーブがファーストサーブであればセカンドサーブに、セカンドサーブであればダブルフォルトになります。

アウト判定に対してチャレンジ、インにくつがえった場合

こちらがややこしいケースです。

なぜなら、チャレンジに成功しても「①打球を打った側にポイントが認められる」ケースと「②ポイントのやり直しになる」ケースがあるからです。

 

①打球を打った側にポイントが認められるケース

インであれば打ち返せなかったであろうエースやウィナーのような打球であれば、打った側のポイントになります。

つまり(明らかにアウト判定のコールを聞いてからプレーを止めたケースを除き)相手がテニスラケットで触れられなかった打球の場合、チャレンジに成功すると打った側のポイントになります。

ギリギリ決まったように見えたサーブがフォルトと判定され、サーバーがチャレンジに成功すれば即ポイントになりがちなのも、ギリギリ=レシーバーが触れられていないケースが多いからです。

 

②ポイントのやり直しになるケース

こちらは、アウトと判定されたボールに相手のテニスラケットが触れていた、またはアウト判定のコールを聞いて相手が意図的にプレーを止めた場合に起こり得ます。

主審が返球できた打球だったかを判断して、ポイントを認めるかやり直しにするか決められるルールですが、大半のポイントでテニスケットで触れさえしていればポイントのやり直しになっている印象です。

(例外としては、アウト判定のコールよりも先に打球を打っていた場合です。この場合にはポイントが認められるでしょう)。

 

このポイントのやり直しのことを「リプレイ・ザ・ポイント」と呼びますが、リプレイ・ザ・ポイントになったら必ずファーストサーブから再開されます。

セカンドサーブから始まったポイントであっても、やり直しになるとファーストサーブからです。

全豪2019 錦織4回戦カレーニョブスタのチャレンジ(追記)

全豪オープン2019の4回戦・錦織 vs カレーニョブスタの最終セットタイブレーク中に、チャレンジを巡ってカレーニョブスタが主審と激しく揉める事態が起こりました。

 

カレーニョブスタの打球はネットに当たって錦織側のコートにポトリと落ちます(コードボール)。

その打球を、錦織が難なくさばいてダウンザラインのウィナー。錦織のポイントでそのまま終わるかと思いきや...

なんと線審が、錦織が打球を打つとほぼ同時にアウトのコールをしていました。

 

問題のシーン(10:10)から再生が始まります。

 

カレーニョブスタは、おそらくアウトコールがポイントの行方に影響したと主張して(どう見ても線審のジャッジがあろうと無かろうとウィナーで終わってましたが)、ポイントのやり直しのためにチャレンジを行いました。

主審もチャレンジを却下しなかったのですが、これがマズかったと思われます。

 

なぜなら、チャレンジ失敗(=ボールが線審の判定通りアウト)だったなら錦織のポイントなのは言うまでもありませんが、結果的にカレーニョブスタのチャレンジが成功(=ボールがイン)でも錦織のポイントだったからです。

つまり、チャレンジに成功しても失敗しても錦織のポイントだったと...。

成功すればチャレンジの残り回数が減らないだけで、失敗すれば回数が0に...それではチャレンジを行わせる意味が全く分かりません(錦織の集中を削ぐための作戦!?いや、そんなことはないでしょう)

 

線審のコールが通常よりも遅かったこともあって、主審も突然のことで混乱していたのかもしれませんが、このゴタゴタで集中が切れてしまったカレーニョブスタには気の毒な場面でした。

主審がコレクション(オーバールール)をして線審のジャッジを即座に改め、さらにカレーニョブスタに対して「コールは錦織のインパクトとほぼ同時で、ポイントの大勢に影響はなかった」と説明をしていれば、あそこまでこじれなかったのかもしれません。

 

すごくレアなケースが、クライマックスの大事な場面で起きてしまった一件でした。

線審のアウトコールがもう少し早くて、錦織がプレーを止めていたならポイントのやり直しになっていたでしょうし、判定も含めて本当に紙一重、ギリギリばかりの試合でした。

 

しかし、主審も5時間を超える中、ずっと集中して試合を裁いている身なので、あまり糾弾しないであげて欲しいなとは思います。線審も目を凝らして頑張っています。

四回戦でチチパスに敗れた後にフェデラーが語った言葉を借りて、この件については締めます。

今日のような戦いでは、ギリギリのコールがつきもの。そのようなコールも時には間違いだってある。みんな人間だし、それもゲームの一部。主審や線審に対して文句を言い始めたりはしない。ホークアイがなかった時代でのプレーにも慣れていた。そんなことは数えきれないほどあった。ただ前へ進むだけ

チャレンジシステムの問題点

画期的な審判補助システムとして採用されているチャレンジシステムですが、問題点がいくつか存在しています。

試合中の誤作動

稀なケースですがこれまでに確認されたものとして、チャレンジシステムが起動しない(ベルディヒ)、2バウンド目を表示(マレー)、表示がおかしくなるといった誤作動が起きています。

映像ではライン上にボールの跡が乗っているのに「OUT」の文字が出ているのもたまに見かけます。

次の動画はロジャーズ・カップ2017で起こったものです。

ボールの軌道が表示されず、どこでバウンドしたのか全く分かりません(汗)

結局、線審のアウト判定に主審がオーバールールする形で(インに判定がくつがえって)再開されました。当然ながらナダルは不満げ...

 

また、停電すると使えなくなるのも問題としてよく挙げられますが、そもそも停電するとスコアボードや照明器具が使用停止になるため試合自体が進められなくなりますね。

チャレンジシステム設置有無で生まれる不公平性

同一大会内で、コートによってチャレンジシステムが使えたり使えなかったりする問題です。

トップシードの選手は基本的にセンターコートかNo.1コート相当での試合が多いので、チャレンジシステムは「使えて当たり前」です。

 

ところが前述の通り、グランドスラム規模であっても全コートにホークアイカメラが設置されている訳ではありません。

早いラウンドではシード選手であってもチャレンジシステムが使えないコートで試合をするケースが出て、不公平性が浮き彫りになります。

なるべく多くのコートでのチャレンジシステム導入を待つしかなさそうです。

チャレンジするまでの制限時間

2009年の全米オープン決勝の試合中、フェデラーが主審に激怒したのを覚えている方も多いと思います。

対戦相手のデルポトロは20歳という若さでグランドスラム優勝を達成しますが、チャレンジするまでの「持ち時間」が問題になりました。

 

判定後にチャレンジするかどうかは選手が決めますが、合図を送るまでの制限時間は特に定められておらず主審の判断に委ねられます。

公式ルールブックにも「チャレンジするためには、プレーヤーはただちにする意向を示して、素早く実行しなければならない。重要なのは "だたちにする意向" の部分。実行するには、主審に対して口頭、またはテニスラケットや指を使ったジェスチャーで視覚的に意思表示をしなければならない。」と記載があるのみです(意訳)。

 

中には、線審の判定について主審に「どう思うか」と尋ねて、主審の返事の印象からチャレンジするかどうか決める選手もいます。

フェデラーはチャレンジする場合はほとんど即決断する(=競技マナーが良い)ため、デルポトロや主審が怒りの矛先になってしまったのも頷けます。

もっとも、フェデラーが爆発したのは試合中にチャレンジ失敗が続いて不満が溜まっていたせいとの説が有力ですが(そういえばフェデラーはもともとチャレンジシステム導入に難色を示していましたね)。

 

フェデを怒らせたチャレンジシステム(Tennisnakama in New York ←Tennisnakamaさんの旧ブログ)で当時の詳細が書かれています。

クレーコートや全仏オープンテニスでは使えない

テニスの試合はハードコートや芝コート、クレーコート等で行われていますが、このうちクレーコートではテニスボールがバウンドした際に跡がハッキリと残るからという理由で、チャレンジシステムは使えないルールになっています。

使えないものの、ホークアイのカメラ自体は設置されているクレーコートも中にはあって、リプレイ映像は場内スクリーンやテレビ中継で流れます。

 

クレーコートで毎年のように発生するのが「主審が違う打球の跡をピックアップして誤審になる」問題です。

次の動画でも、シャラポワの打球はオンラインですが主審のアウト判定が採用されています。

この判定(誤審)に選手が納得できるわけもありません。ポイントによっては試合結果に深刻な影響を与えてしまいます。

クレーコート、特にグランドスラムである全仏オープンテニスでは、チャレンジシステムを使えるようにルール改正すべきではないでしょうか。

チャレンジシステム導入のきっかけ

テニス界におけるチャレンジシステム導入までの経緯や、導入後の拡がりなどについて触れていきます。

 

テニスの試合でチャレンジシステムの映像が初めて世に出たのは、2002年2月に行われたデビスカップのネット配信中。

翌年の全豪オープン2003で、チャレンジシステムはグランドスラムで初となるテレビデビューを達成しました。

その後も各トーナメントで試験的に映像が流れるようになっていき、2003年9月にはアメリカでテレビ関連する様々な業績に与えられる「エミー賞」を受賞して注目を集めました。

 

チャレンジシステムが最も注目を集め、導入に向けて勢いが加速するきっかけとなったのは、全米オープン2004準々決勝 セリーナ・ウィリアムズ VS ジェニファー・カプリアティの一戦

チャレンジシステムの映像とは逆の判定、それもウィリアムズにとって不利な判定が続いた上、ウィリアムズはカプリアティに逆転負けしたのです(6-2  4-6  4-6)。

映像が粗くて見づらいのですが、問題となった一戦です(最終セットはじめの誤審続きは、あまりにも気の毒です)。

元WOWOWアナウンサーの岩佐徹さんが当時の様子をブログにアップされているので、よろしければご覧ください。

⇒「セレナを見舞った大誤審~ホークアイ導入のきっかけになった~」(岩佐徹のOFF-MIKE)

 

その後、2005年10月に全米オープン会場のアーサー・アッシュ・スタジアムでのITFによる厳しい審査に合格、ついに審判補助システムとしてツアーレベルでの使用が認められました。

エキシビションマッチも含めると、チャレンジシステムが正式に採用された初の大会は2005年12月のATPチャンピオンズツアー(ATPが開催している歴代OBによるシニアツアー)で、イギリスのロイヤルアルバートホールが初の設置場所です。

 

2006年はチャレンジシステム元年と言ってもいい年で、テニス界で一気に普及が進みます。

年始のホップマンカップ(エキシビションの国別対抗戦、わりとガチなことで有名)で初めてチャレンジシステムが採用されると、ポイントが発生する大会での初導入は2006年3月のナスダック100オープン。

全米オープン2006がチャレンジシステム初導入のグランドスラム大会で、全米オープンシリーズの計10大会(男女合計)でチャレンジシステムが次々に導入されました。

アメリカ以外で初めてチャレンジシステムを採用した大会はチャイナ・オープン(中国)で、それも2006年がはじまりです。

 

翌年の全豪オープン2007でも採用されましたが、当時は各選手2回までの使用でした(タイブレーク突入で1回追加等は現状と同じ)。

ウィンブルドン2007でも初導入され、このタイミングでチャレンジの残り回数が現行の3回に変更になりました。

 

2011年3月、BNPパリバ・オープン(インディアンウェルズ・マスターズ)が8つの競技用コート全てでホークアイカメラが設置され話題になりました。

ウィンブルドン2011では、グランドスラム初の4コートでのチャレンジシステム導入を実現(2ヶ月後、全米オープンでも4コートで設置されました)。

 

2012年頃にはマイアミ・オープン・SAPオープンで、選手とボールの追跡データが記録され活用・応用され始めます。

テニスのロンドンオリンピック会場でも2コートでチャレンジシステムが導入されました。

 

 

現在テレビ・ネット中継や会場スクリーンに映されるあらゆるデータ(サーブのプレースメント図、リターンの位置分布図、試合中に走った距離など)は、チャレンジシステムによって集計・分析されています。

また、スマートリプレイ技術の向上により、フットフォルトの判定までリプレイで映せるようになっています。

クレーコートでの導入など、解決すべき問題も残っていますが、これからもチャレンジシステムの動向・進化から目が離せません!

 

 

以上、チャレンジシステムの仕組み、やり直しルール等についてでした!