北京で開催されているチャイナ・オープンの大気汚染事情が、シャレになっていないのかもしれません。
ちょくちょく選手らから健康被害の声が聞こえてきていましたが、本腰を入れて調べてみると実際に大変な目に遭った選手までいて、テニスどころじゃない可能性があります。
最近ではBIG4らネームバリューのあるプレーヤーがこぞって参戦しているチャイナ・オープン。
同日程で開催される楽天ジャパン・オープンにとって、北京の大気汚染は追い風となるかもしれません。
今回は、チャイナ・オープンの大気汚染事情についてまとめています。
大気汚染が深刻化した2013年のチャイナ・オープンで問題続出
中国・北京での大気汚染問題は、北京オリンピックが行われる2008年頃までにも議論の的になっていました。
オリンピック当時は、会場周辺の工場の操業停止や車の通行規制を行って一定の成果をあげた(?)ようですが、根本的な解決策には至らず。
オリンピックから約5年が経った2013年初めに、北京市内で一気に大気汚染が深刻化してしまいます。
わずか数十メートル先のものでさえ見えなくなってしまうほどの重篤性で、日本でも「PM2.5」の単語とともに中国の大気汚染が広く報道されました(そして偏西風に乗ってPM2.5が日本へ...)。
チャイナ・オープンが行われる秋頃には、年始よりはいくぶん改善されていたようですが、大気汚染による問題が続出する事態となりました。
当時36歳だったロベルト・リンドステッド(スウェーデン)の発言は、世界に衝撃を与えました。
(余談ですが、リンドステッドはルカシュ・クボットとペアを組んで翌年の全豪オープン2014を制した、最高位3位のダブルス巧者です)
“When we were about to land today I looked out the window and saw only clouds. Or what I thought was clouds.”
「(北京へ向かう飛行機で)もうすぐ着陸という時に、窓の外を見ると雲しか見えなかった。いや、『雲だと思っていたもの』しか見えなかった。」
“I have been thinking a lot about how bad the air is over here. I get dizzy when I get up. Yesterday I couldn’t recover between points in practice and was breathing heavily the whole hour… It’s just not healthy to be here.”
「(試合のこと以外では)どれだけここ(北京)の空気が悪いのかばかり考えてしまう。起きた時にはめまいがするし、昨日の練習中も(空気のせいで)ポイント間で回復することができず、小一時間ずっと息苦しかった...僕はここにいたら寿命が縮んでしまうよ。」
“We spend most of our time at the hotel since we don’t want to go out in the bad air. But if I should be honest, this year has been worse than the other years,”
「こんな空気の悪い中で外に出かけたいと思わないから、ほとんどの時間をホテルで過ごしている。正直に言って、ここ数年と比べて今年はひどくなってるんじゃないかな。」
(引用元:Beijing Air ‘A Joke,’ Complains Swedish Tennis Champion)
リンドステッドの発言を裏付けるように、女子の試合では試合中に具合が悪くなってプレーが中断される場面もあったようです(冒頭画像がそのワンシーンで、ドクターが駆けつけて血圧を測り出したとか)。
実は伊達 公子(当時はクルム 伊達)も2013年の北京に参戦していました。
当時のブログ記事が残っていますが、かなりヒドい状況だったようで...
まだ調子悪いです..... 夜までずっとひどい頭痛が続きました。 軽い目眩も時々..... (中略) 普段、頭痛持ちじゃないからキツイ.... この空気じゃほんとに外に出るのが怖いから ずっと部屋にこもってます。
リンドステッドと同様の内容をブログに残していました。
結局、体調が回復することはなく、試合途中に棄権し予選敗退となってしまいました。
2015年にはクーリザンがボイコット宣言!2017年にも...
2015年にも、複数のプレーヤーから大気汚染の影響と思われる症状があらわれます。
マルティン・クーリザンは、自身のFacebook上で痛烈に北京の大気汚染を批判し、ボイコット宣言をしました(その投稿はのちに削除されましたが、ネット上にはキャプチャが残っています)。
tennnisnakama様のブログ「TENNISNAKAMA.COM」内の記事で当時の様子がまとめられていますので、よろしければご参照ください。
クーリザンの発言(和訳)を抜粋すると
今日の試合の結果はともかく、北京のスモッグは極端に悪く、試合が始まった30分後からポイントごとに咳が出て止まらなくなってしまい、試合後には嘔吐してしまいました。北京のスモッグの状態は最悪で、私の経験からも、大会主催者は選手の健康を最優先するべきだと思います。 残念ながら大会を去らなければなりませんが、今後のキャリアにおいて、北京の名前は私のトーナメントカレンダーから二度と姿を現わすことはないでしょう。
有言実行で、翌2016年は楽天ジャパン・オープンに来てくれていました(残念ながら初戦敗退でしたが)。
2017年はランキングが落ちていてチャレンジャー巡りになっていますが、中国の大会には全くエントリーしていません。
また、チャイナ・オープン2013では他にも、ジョー・ウィルフリード・ツォンガが目まいを訴えて初戦敗退。
試合後のツォンガは目まいの症状を訴えており、月曜日の北京の大気汚染の影響かと聞かれると、プレーに影響があったと話している。アメリカ大使館の観測によれば、午後遅くにはPM2.5が292という指数を示しており、「非常に不健康」な状況を示していた。
「PM2.5が292という指数」については後述しますが、当時ナダルも咳き込んでしまう場面があったようで、大気汚染にやられた選手は数知れず。
2017年にも、グリゴール・ディミトロフが体調不良を訴えてニュースになっていました。
「最初の3日間は、誰にとってもかなり不快だと思う。少し頭痛があって、せきも少し出た。1戦目の第1セットは検査のような感じだった。自分がどこにいるのかを確かめるようなね」
年々改善されているとの声もある一方、依然として大気汚染が深刻だと思われる状況は続いています。
実際に北京の空気の汚れ具合を測って東京と比較してみた
調べていてはじめて知ったのですが、インターネット上で大気汚染の度合いを測れるサービスがあります。
それがReal-time Air Quality Index(AQI)というサイトです。
↑リンク先で「今の」北京の大気の状態が分かります。大気の状態が不安定って天気予報だけの言葉だと思ってた
実際に、2016年10月17日の昼休みに大気の状態を測ったものが次の3つです。
上から東京、上海、北京です。
大きく表示されている数字はPM2.5の量を表していて、次のように健康被害への影響が分類されています。
大気質 指数 | 日平均 PM2.5 (μg /m3) |
指数 種別 | 健康影響 | 健康アドバイス |
0~50 | 0~35 | 優 | 汚染なし。 | 通常の活動が可能。 |
51~100 | 35~75 | 良 | 特に敏感な人に対し、軽い影響がある。 | 特に敏感な人は、屋 外活動を控えるべき。 |
101~150 | 75~115 | 軽度 汚染 | 敏感な人は症状悪化、健康な人にも刺 激症状あり。 | 心臓・肺疾患患者、高齢者、子どもは長時間または激しい屋外活動を控えるべき。 |
151~200 | 115~150 | 中度 汚染 | 敏感な人はさらに症状悪化、健康な人も心臓・呼吸器への影響の可能性あり。 | 心臓・肺疾患患者、高齢者、子どもは長時間 または激しい屋外活動を中止すべき。すべての人は屋外活動を適度に控えるべき。 |
201~300 | 150~250 | 重度 汚染 | 心臓病・肺疾患患者は症状が顕著に悪化、健康な人にもすべて症状が出る。 | 心臓・肺疾患患者、高齢者、子どもは屋外活動を中止すべき。すべての人は屋外活動を控えるべき。 |
301~500 | 250~500 | 厳重 汚染 | 健康な人も忍耐力が低下し、強烈な症状が見られ、疾病を早期に発症する。 | 心臓・肺疾患患者、高齢者、子どもは屋内に留まり体力消耗を避けるべき。すべての人は屋外活動を中止すべき。 |
先ほどツォンガの部分で触れた数値292は、重度汚染というよりも厳重汚染に近い状況だったことが分かります(すべての人は屋外活動を中止すべき)。
さて、上の画像だと北京は134になっていましたが、PM2.5の過去48時間の数値を見ると赤いグラフが多いのが確認できます。
調査ページでは周辺地域の数値も表示されますが、北京の周りは見渡す限りの赤・赤・赤!
東京と比較すると一目瞭然です。
「都会の空気は悪い」なんて言いますが、北京に比べたら東京など足元にも及びません。
都心がこんなにミドリ豊かな世界だったとは驚きですが...。
さきほどの地図を縮小して見てみると、日中韓の比較ができました。
日本は緑が多く、韓国は真っ黄色、そして中国の都会では赤や紫が蔓延状態…ちなみに北京はテニスボールのイラスト付近です。
よく見たら近くに999という地獄のような数値もあり、人が活動できる世界ではなさそうです...。
ということで、実際に測ってみたら、東京とは比較にならないほど北京の空気は汚れていることが判明しました。
全ての試合が屋内で行われるわけではないので、北京の大気汚染問題が解決せずに選手間で不評が広まれば、日本に有力選手が流れてくる可能性は十分にありそうです。
そういえば2022年には冬季オリンピック開催が予定されている北京。
果たしてその頃には大気汚染が解消されているのでしょうか...。
以上、深刻を極めているチャイナ・オープン(北京)の大気汚染についてでした。