2015年以降あまりに1人だけ強いので、1強時代と表現されている全盛期真っ只中のノバク・ジョコビッチ。
錦織圭の2020年1月時点での対戦成績は2勝17敗で、2014年全米準決勝での大金星以来は勝てていません(16連敗中)。
ニュースなどで度々言われるのが「世界一のディフェンス」と「弱点がないという強さ」(どちらも何だかあやふやな言葉な気が...。)。
もちろんその2つは強さの大きな要因ですが、それ以外にもまだまだあります。
今回はジョコビッチの強さの秘密について、なぜ強いのかを詳しく具体的に見ていきます。
以下、全盛期と言われていた2015年のスタッツを参照して解説していきます。
※スタッツとは、選手のプレー内容に関する統計数値のことで、ここでは2015年の1年間試合をした中で、結果として残っている様々な成績のことです。
目次
ジョコビッチのサーブ:セカンドサーブの質が非常に高い
ジョコビッチのセカンドサーブは質の高いスピンサーブ(キックサーブ)です。
相手から遠ざかる軌道で強烈にバウンドさせるキックサーブは、セカンドサーブなのにエースをとることもしばしば。
2015年は、非ビッグサーバーながらセカンドサーブ・ポインツウォン(自分のセカンドサーブ時にポイントを取れる確率)が60%という異常な数値。
一般的にセカンドサーブは、速度が落ちるのに伴いサーブの威力も落ちることが多く、レシーバーは攻撃的なリターンが可能になります。
その結果、サーバーはファーストサーブに比べポイントを取りづらくなります。
そんなセカンドサーブ時のポイント取得率が、サーブが強力なジョン・イズナーやミロシュ・ラオニッチ、イボ・カルロビッチらを抑えて堂々の1位です。
ちなみに、ロジャー・フェデラーが4位にいます。
フェデラーはセカンドサーブの球種が多い(スライスサーブ、トップスライスサーブ、キックサーブ)上、プレースメントの打ち分けも自在でサーブが読みにくいのが大きな要因と考えられます。
錦織圭は55%で11位でした。
錦織はサーブ、特にセカンドサーブが弱点だと言われて久しいですが、さほど下位に沈んでいないのは、抜群のストローク力でカバーしているからだと考えられます。
ジョコビッチはファーストサーブ・ポインツウォンが74%で24位と決して高くはないのですが、高い確率でファーストサーブを入れてきます(66%で5位)。
レシーバーからすると、なかなか攻撃的にはいけない相手です。
そして、セカンドサーブになっても、平均60%の確率でポイントを取られます。
これでは、対戦相手はなかなか試合中に勢いに乗ることができません。
サーブについてまとめると、ジョコビッチのサーブは圧倒的な迫力こそないものの、攻略が難しい隙のないサーブと言えます。
ジョコビッチのリターン:世界一のリターンで相手をどんどん追い詰める
「ジョコビッチ=鉄壁の守備の人」だけでは真実ではありません。
なぜなら、ジョコビッチは誰よりも攻撃的なリターンを持っているからです。
リターンでのポイント獲得率は、ファーストサーブ時・セカンドサーブ時とも世界第1位です。
つまり、相手サーブをブレイクしまくる選手という訳です。
↑ファーストサーブリターン・ポインツウォン(獲得%順)。BIG4が全員5位以内なのは、経験値からくる相手サーブへの読みの良さが影響していると考えてよさそうです。
↑こちらがセカンドサーブリターンポインツウォン(獲得%順)。
リターン巧者のジル・シモンが渋く4位にランクイン。ちなみに5位は54%でトマーシュ・ベルディヒ。6位は54%で錦織でした。
ジョコビッチ相手に先にブレイクをしたとしても、絶対優位という訳ではありません。
画像は省略しますが、リターンゲームでも34%の確率でゲームを獲得するのがジョコビッチです。
つまり、3回に1回以上の確率でブレイクされてしまうという統計データで、これは本当に恐ろしいことです(ちなみにダビド・フェレールも34%の高確率ですが、フェレールは自身のサービスゲームのキープ率が80%と低く、一方のジョコビッチは89%のキープ率でした。)。
仮に自身のサービスゲームがブレイクされても、すぐにブレイクバックできるという自信があるのでしょう。
そして実際にブレイクバックし、相手のメンタルにダメージを与えます。
ジョコビッチのストローク:世界一のバックハンドの安定感
現役で一番バックハンドが優れているのは?と聞くと、
スタニスラス・バブリンカの片手バックハンド?
リシャール・ガスケの天才的な片手バックハンド?
いやいや、フェデラーの片手バックハンドも捨て難い!
実は錦織の両手バックハンドは世界一なのでは?
と、色々と出てきそうですが...残念ながらジョコビッチの両手バックハンドが世界一だと思います。
あまりにミスをしない上、どこからでもコースの打ち分けが出来るからです。
高い打点であろうと低い打点であろうと全く苦にしませんし、形が崩れません。
以前、WOWOW動画でも坂本正秀さんがジョコビッチのバックハンドの秘密を解説していました(現在は残念ながら公開されておりません)が、完成度は歴代最高という評価でした。
アンディ・マレーも「世界最高のバックハンドは?」と聞かれると真っ先にジョコビッチの名を挙げるほど。
しっかりと肩を入れてコースを消した綺麗なフォームから、フォアハンドで左右に打ち分けてじわじわ相手を追い詰めるイメージが強いジョコビッチ。
ですが、実は目立たないだけでバックハンドの安定感が凄まじく、結果としてストローク全体の安定感に繋がり相手へのプレッシャーとなっています。
ジョコビッチのコートカバーリング:読みとフットワークの良さ+柔軟性とクレーコートでのスライディング
先ほどのバックハンドの画像で思ったはずです。
体柔らかすぎでしょ!!!と。笑
ジョコビッチはほぼ180度開脚しながらボールを拾いに行けますし、クレーコートでのスライディングショットは攻撃と防御を共存させた素晴らしいショットです。
元々相手のショットに対する読みも良く、加えてフットワークも良く、さらにフットワークを強化している体の柔軟性とスライディング。
クレーでのナダルに並んで、世界一ボールを拾いまくるテニスプレーヤーはジョコビッチで間違いありません(2大変態に続くのがフェデラー、マレーら、これまたテニス星人...もとい超人)。
錦織も「長いラリーになるとポイントが取れない」と表現していました。
取れないコースがどこにあるのか分からなくなるほど拾うため、ジョコビッチ相手だとどこに打っていいのか分からなくなり、アンフォーストエラーが増えてしまいます。
ジョコビッチのメンタル:人間離れした「メンタルモンスター」
「イチかバチかで目を瞑ってリターンした」みたいな事を言った事があります。
これは、2011年全米オープン準決勝 vs フェデラー戦でのこと。
「フェデラーサーブで、フェデラーにマッチポイントが2本」という絶体絶命の状況で連続リターンエースを決めた場面を、試合後に振り返ったジョコビッチのセリフです。
百戦錬磨のフェデラーが試合後に「どうして自分が負けたのか分からない」とまで表現した、誰もが現実のものとは思えないほど驚き我が目を疑った連続ポイントでした。
テニスのトッププロの条件として、「厳しい場面ほどパフォーマンスが向上する」というのがありますが、ジョコビッチは完全に当てはまります。
追い詰められるほど、極限の中で集中力が増してゾーンに入ります。観衆の声援が対戦相手の味方をする超アウェーな状況であっても、「ブーイングを自分への歓声と解釈」できるほどの鋼のメンタルです。
そしてゾーンに入ったジョコビッチは、実況解説も我を忘れて叫んでしまうほど信じられないプレーを見せます。
ギャンブルのような博打的な作戦・ショットセレクションで相手に襲いかかります。
「メンタルモンスター」という言葉は、ジョコビッチのためにあると言っても過言ではありません。
テニス選手の中では、ジョコビッチ、フェデラー、ナダルらのメンタルの強さは驚異的です(マレーはBIG4の一角ですが、メンタルでは若干の隙有り...)。
ここまで長々と解説してきましたが、要するにジョコビッチは単純に「弱点がない」のではなく、強みがたくさんあるから強いんです。
そのたくさんある強みの一つ一つが目立たなくて、相手に見えないプレッシャーとして襲いかかるから余計に厄介なのかもしれません。
【ジョコビッチのベストプレー集2015年版】
2016年シーズンは初めの4ヶ月間で、まだ2回しか負けていません。
2月のドバイでフェリシアーノ・ロペスに棄権負け(アレルギー性の目の炎症が原因でした)したのと、4月のマスターズ・モンテカルロ大会でイリ・ベセリに敗れた2回です。
最近では、2005年のフェデラーが81勝4敗という驚異的な年間成績を残しましたが、それにどこまで近づけるか、はたまた超える記録が生まれるのか、注目です。
※諸説ありますが、歴代最高成績は1984年マッケンローの82勝3敗です。
(2021年7月追記)
当記事を最初に公開した2016年から5年後の2021年、2月開幕のシーズンで7月末時点の戦績が34勝3敗という驚異的な勝率を記録しています。
年間ゴールデンスラムという男子初の偉業を達成すべく、東京オリンピックにも出場しているジョコビッチ。歴代最高とも言えるパフォーマンスがどこまで続くのか、注目していきたいと思います。
以上、全盛期ジョコビッチの強さの中身についてでした!