全豪オープン大会9日目は、トップハーフの準々決勝2試合が行われました。
スタン・バブリンカ VS ジョー・ウィルフリード・ツォンガの一戦は、バブリンカが高い集中力をキープし、7-6(7-2) 6-4 6-3でストレートの勝利。
全体的にストロークでバブリンカが優勢で、第2セット以降はバックの打ち分けも自在にコントロールし、らしさを発揮しました。
ツォンガは1stサーブ%が53%と低調だったのと、6度あったブレイクチャンスを1度しか生かせなかったのが響きました(バブリンカは3/3でブレイク成功)。
ちなみにこの試合、第1セット終了後のセット間にベンチで口論する珍しいシーンもありました(相手陣営に向かってガッツポーズをした件でいざこざ)。
【バブリンカ VS ツォンガのハイライト動画】
もう1試合は、ナイトセッションで行われたロジャー・フェデラー VS ミーシャ・ズベレフ。
アンディ・マレーを破って初のグランドスラム準々決勝進出を果たしたズベレフ兄ですが、最終スコアは6-1 7-5 6-2でフェデラーがストレートの勝利。
今回は、マレー戦とフェデラー戦とで何が違ったのか、フェデラー圧勝の要因と共に見ていきます。
目次
ズベレフ兄のパフォーマンスに「平均への回帰」はあるか
ズベレフ兄の持ち味は自身のプレースタイルであるサーブ&ボレー。
マレーは、しつこくネットに詰めてくるズベレフに手を焼き、そして敗れました。
試合後の会見で「ズベレフのアプローチショットが良すぎた」とマレーが言っていましたが、サーブといいファーストボレーの精度(ほとんどがコートの深めに決まった)といい「出来すぎ」でした。
あれだけのプレーをされると、調子の良いマレーでもなかなか難しい試合だったと思います。
(ここから、テニスとは関係ない小難しい理論の話になるので、あんまりな方は次の見出しまで読み飛ばしてください)
統計学的に、結果が「特別に良かった」「特別に悪かった」場合の次の結果は、平均に近づく場合が極めて多い(特別良かった場合はそれよりも悪く、特別悪かった場合はそれよりはマシになる)というものがあります。
そりゃそうだろと感じたかもしれませんが、これは「平均への回帰」と言って、かつてイスラエル空軍の訓練で教官が「訓練生を褒めたら下手になり、叱ると上手くなるから、叱る方が訓練には良い」と主張した内容を覆した理論です。
上手くいったら褒めて、ダメだったら叱る、すると次にはその効果が出る(褒めると浮かれて悪くなり、叱ると気が引き締められて良くなる)ということだったんですが、それは褒めたか叱ったかが重要ではなく、単に統計上の「平均への回帰」だったということです。
部活動などに見られる「(体罰に代表されるような)理不尽な指導」や「根性論」に待ったをかけるには、うってつけの理論です。
↓この本に登場します。人間の意思決定に関するあれこれが詰まっているので、興味のある方はどうぞ。
要するに、フェデラー戦は「平均への回帰」が起きてパフォーマンスが落ちるのか、それとも、全豪と相性バツグンで勝ち上がりは本当の実力なのかが分かる、注目の一戦だなと考えていたわけです。
P.S.
対戦相手との相性、勝ち上がりによる体力消耗度合いや、大事な試合・ポイントの緊張感やプレッシャー、その他諸々の要因があってパフォーマンスが決まるので、全ての試合において「平均への回帰」を主張するつもりは毛頭ございません。
仕事柄Webマーケティングの一環で統計学や行動心理学をかじっており、スポーツ観戦でもついそのような見方をしてしまいます...。
ズベレフ兄の調子は落ちていなかった...完敗の原因は
所感ですが、ズベレフの調子自体は落ちず、平均への回帰は見られませんでした。
ファーストサーブの確率はむしろ良くなっていて、マレー戦の66%に対してフェデラー戦は74%。
ネットプレーを果敢に仕掛ける姿勢も同じで、マレー戦よりも動きが悪いといった印象も受けませんでした。
では、マレー戦とフェデラー戦とで、どこが違っていたのか。
マレー戦との違いはもちろん対戦相手にありますが、完敗の原因は、
1.(フェデラーとマレーの)セカンドサーブの差
2.ネットプレーとフェデラーのプレーとの相性の悪さ
3.フェデラーの調子の良さ(実力?)
にあると考えています。
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1.(フェデラーとマレーの)セカンドサーブの差
マレーとフェデラーの2試合の、ズベレフ戦のサーブ関係スタッツを比較すると、次のようになります。
(マレー:4セット)
エース:10
ダブルフォルト:6
ファーストサーブ%:66%
ファストサーブポインツウォン:65%
セカンドサーブポインツウォン:36%
(フェデラー:3セット)
エース:9
ダブルフォルト:1
ファーストサーブ%:68%
ファストサーブポインツウォン:69%
セカンドサーブポインツウォン:68%
ダブルフォルトの多さは、マレーが波に乗れなかった一因かもしれません(もしくは流れが悪くてダブルフォルトが増えたのかも)。
注目すべきはセカンドサーブポインツウォン(セカンドサーブ時のポイント取得率)です。
マレーのセカンドサーブはスピン系が多めで単調になりがちですが、フェデラーのセカンドサーブは球種・プレイスメントともに的を絞らせない工夫が凝らされています。
通算でも、セカンドサーブポインツウォンはフェデラーの方が5%も上回っています(フェデラー57%、マレー52%)。
先の試合でも、ズベレフがフェデラーのキックサーブの変化についていけず、そのままエースになる場面がありました。
リターンダッシュも戦術の一つであるズベレフにとって、攻略しづらいセカンドサーブを持つ相手は厄介と言えます。
2.ネットプレーとフェデラーのプレーとの相性の悪さ
ネットに詰めた相手の横を抜くパッシングショットの精度が、フェデラーは非常に高いことで有名です(本来はマレーもそのはずだったんですが...)。
特に、バックハンドのライジングショットによるパッシングは、他の選手には真似できないものがあります。
ズベレフは、これまでの勝ち上がりの中で上手くいったように、相手のバック側へアプローチショットを打って、ネットへ詰めていきました。
しかし、ことごとくフェデラーのバックハンドの餌食となってしまいました...。
そのパスされる回数たるや凄まじく、奇しくも同日にITF(国際テニス連盟)が殿堂入りを発表したアンディ・ロディックを思い出した方も多かったのではないでしょうか。
何度か片手バックなのに、見事なロブでズベレフの頭上を抜くショットも見せました。
レパートリーの多さは、ただただスゴイの一言です…。
フェデラーはリターンの位置もポイント毎に変化をつけて(セイバー気味のも少しありました)、ズベレフに気持ちよくプレーさせることなく試合を終わらせました。
マレー戦では55%(65/118)の確率で取れていたネットポイントも、フェデラー戦では40%(30/75)まで落ち込み、「いかにネットプレーが通用しなかったか」が見て取れます。
3.フェデラーの調子の良さ(実力?)
今大会見ていてビックリなのが、フェデラーの調子がうなぎのぼりで良くなっているということです。
1回戦、2回戦のフェデラーのプレーには、長期間のブランクを感じさせるものが随所にありました。
しかし、3回戦のトマーシュ・ベルディヒ戦で一変します。
全盛期のような圧倒的なプレーで、強敵をわずか1時間30分で下しました。
4回戦の錦織 圭には、さすがに手こずりました。
第1セット序盤は「サーブのコースがことごとく読まれていた」とフェデラーが振り返ったように、全くいいところなく先行されますが、そこから巻き返すあたりがフェデラーの強さです。
第4セットは優勢ながら落としますが(これは錦織を褒めるべきです)、フルセットの末に勝利して、大きな山を超えました。
そしてズベレフ戦。
ストレートの快勝で、前の試合の疲労も全く感じさせませんでした。
最近3試合のサーブ関係スタッツは次のようになっています。
(ベルディヒ戦:3セット)
エース:8
ダブルフォルト:2
ファーストサーブ%:59%
ファストサーブポインツウォン:95%
セカンドサーブポインツウォン:59%
( 錦織戦:5セット)
エース:24
ダブルフォルト:6
ファーストサーブ%:68%
ファストサーブポインツウォン:80%
セカンドサーブポインツウォン:48%
(ズベレフ戦:3セット)
エース:9
ダブルフォルト:1
ファーストサーブ%:68%
ファストサーブポインツウォン:69%
セカンドサーブポインツウォン:68%
ベルディヒ戦のファーストサーブポインツウォン95%は、異常です...。
バックハンドはパッシングショットだけでなく、積極的に強打で畳み掛け、優位に立つシーンが目立ちます。
かつて弱点とも言われていたバックハンドですが、明らかに進化を遂げています。
今大会のバックハンドの精度とサーブの総合力は、全盛期を凌駕していると言えるでしょう。
考察を深めていくうちに、非常に長くなってしまいました…。
今のフェデラーの調子なら、バブリンカ相手でもチャンスは十分にありそうです。
大会10日目の結果はまだ出ていませんが、これは本当に「フェデラー VS ナダル」の決勝戦が見られるかもしれません(見たい!!)。
全豪の神、2人に力を与えてください!