ランキング1位になって、2017年に入ってから不調が続くアンディ・マレー。
全豪オープン4回戦敗退の後、帯状疱疹、右肘の故障(腱の断裂?)、インフルエンザ発症と散々な目に遭ってきており、コンディションが整ってこなかったのが1つの原因でしょう。
しかし、一時期サーブも打てなかった状態から、ロジャー・フェデラーとのエキシビションも経て順調に回復してきているにもかかわらず、結果は思わしくありません。
ここ2年のクレーでの好成績が嘘だったかのように、2014年以前のクレーが苦手なマレーに逆戻りしている印象です。
やはりまだ右肘負傷の影響は色濃く出ているのか。
右肘以外にもどこかフィジカル的に悪い箇所があるのか。
フィジカルが万全なら、一体何が原因でスランプに陥っているのか。
今回は、マレーのクレーコートシーズン不調の原因についてまとめています。
0. コーチのレンドルを振り向かせたい
イワン・レンドルがコーチに復帰して、もうすぐ1年になります。
そんなレンドル、アメリカ・テニス協会の選手育成プログラムを担っており、なかなかマレーらとツアー帯同する時間が取れません。
毎週月曜に電話でコーチングしているものの、不調のマレーにはそれだけでは足りないはず。
先日、全仏の前週には合流して、約3週間はツアーを一緒に戦うことが発表されましたが、マレーは早く来て欲しいのかもしれません。
会いたいって願っても会えない
電話の声だけでは満足できない。
会いたくて 会いたくて 震えるせいでサーブが入らず、ストロークにもミスが出る。
早く来て欲しくて、駆け引きで過激な行動(マスターズで早期敗退)も取ってしまう…。
もう一度聞かせて嘘でも
あの日のように "よくやった" って…
1. 右肘故障の影響でサーブ指標が軒並み低調
冗談じゃない状況にあると、冗談の1つも言いたくなるものです(すみません)。
ここからはマジメに解説していきます。
まず、フィジカル面では、右肘故障によるサーブ関係の確率低下が大きな原因に挙げられます。
telegraph.co.ukから引用してきたデータを見てみましょう(引用元:http://www.telegraph.co.uk/tennis/2017/05/17/andy-murray-has-fallen-big-slump-can-recover/)。
画像右側がサーブ・リターン関係のスタッツです。
昨年との比較で見ると、ファーストサーブの入りが悪いだけでなく、入ってもポインツウォンが74%→67%と7%も低下。
ブレイクポイントのセーブ率(凌ぐ確率)も64%→59%に悪化。
ブレイクチャンスをものにする確率は上がってますが、そもそもブレイクチャンス自体が昨年よりも減っているはずです。
サービスゲームのキープ率は84%→71%と実に13%もの低下を招いていました。
おまけにリターンゲームのブレイク率も33%→28%と5%マイナス。
これでは波に乗れるはずがありません。
ちなみに、冒頭で「2014年以前のマレーに戻った印象」と述べましたが、画像左側のクレーでの戦績を見ると一目瞭然です。
2. 戦術面での工夫の欠如(試合勘も関係?)
マレーといえば、試合序盤はサーブが低空飛行なことも多く、スロースターターとして知られています。
それでも、これまでは第1セットの中盤には調子を上げてきて競った中でセットを先取し、以降は突き放す勝ち方が多く見られました。
ところが、今年のクレーコートでは、相手を揺さぶるような戦術面での工夫があまり見られません。
ただポジションを下げて粘り強くボールを拾うだけで、持ち前のカウンターパンチャーぶりは影を潜めています。
サーブで相手を崩しきれず、ブロックリターンも有効打とはいかず...先に深めにショットを配球され劣勢を余儀なくされる試合が続いています。
また、試合勘が鈍っている影響もあるかもしれませんが、相手ショットの予測(読み)も良くありません。
フォニーニ戦では2セットで7本ものドロップウィナーを決められましたが、これまでのマレーでは考えられないことです。
あまりにボールを追えないことから、足腰の故障を心配したファンも多いと思いますが、僕は試合勘の衰えと、次のメンタルによる影響だと考えています。
(追記)
2016年後半の連勝による勤続疲労に原因があるという意見も多く聞かれますが、バルセロナに急遽出場したこと、全仏をパスする意向などが全くないことから、違うのではないでしょうか。
3. メンタルのスランプ 焦りが出てコントロール不能
BIG4やトッププレーヤーには、どれだけ試合中に苦境に立たされても、ターニングポイントを見極めて形勢を逆転させるメンタルの強さがあります。
しかし、近頃のマレーのメンタル状態は絶不調。
試合中の覇気の無さ(もはや無気力状態)、消極的な受け身テニス、いずれもメンタルの状態を如実に表しています。
テニスをプレーしている方ならご存知でしょうが、例えばサーブを打つ時、メンタルの状態によってネットの高さの体感が変わったりします(入るか心配な時はネットが高く、サービスエリアが狭く感じる)。
確かに相手プレーヤーがどんどん攻め込んできて、良い時間が続くので、気落ちしそうになるのは分かりますが、自身を鼓舞して奮い立たせるような言動もほとんどないのはよくありません...。
フォニーニのドロップを追えなかったのも、メンタルによる影響が小さくなかったはずです。
マレーは試合に負けるたびに「ランキング1位の重圧が原因か」と質問され続けています。
本人は毎回否定していますが、ここまで言われてしまうと少なからずストレスでしょうし、かなり辟易していることでしょう...。
厳しい場面で「何とかしなければ」と思っているのは感じますが、ただ焦っているだけで試合を、メンタルをコントロールできていません。
今の状態のままでは、相手に the best game of his career を献上するのみです...。
ということで、
- 右肘故障の影響でサーブが不調でスロースタート
- そのせいで波に乗れず、ストロークでも相手が自信を持って攻め込んでくるため劣勢に
- 焦りだけが募って、会場の雰囲気にものまれて余裕がなくなり自滅(サーブは低調のまま試合終了)
という残念な負のスパイラルが、現状ではあります。
しかし、あと10日足らずで全仏ですが、まだ間に合うはずです。
なんといってもレンドルの合流という一大イベントが、マレーに力を与えてくれるはず。
マレーが初めてレンドルをコーチに招聘した時、最も変わったのはメンタルでした。
「レンドルのような偉大な人が近くにいると自信を持ってプレーできる」というようなニュアンスの内容を以前語っていましたし、ビハインドの場面でも決して諦めずに、勇気を持って攻める姿勢を貫けるようになったのもレンドルのおかげです。
全世界のテニスファンが、マレーの全仏躍進に懐疑的な今こそ、レンドルコーチにメンタルを修復してもらって、最高のパフォーマンスを見せる時です。
「人生最大のプレッシャーの中で見せた、自身のパフォーマンスを誇るべき」
これはウィンブルドン決勝でフェデラーに敗れた際に、レンドルがマレーに贈った有名な言葉。
この言葉が、全仏を終えた時にマレーに届いていますように...。
不屈の男、マレー。このままでは終われません!
Let's Go Andy!!